遠近傍とスケール間近接("Distant Neighbors and Interscalar Contiguities" 全訳)

ここでは,以下の論文の全訳を掲載する.本論文は著者らによる内容訂正後,CC BY 4.0ライセンスの下でオープンアクセスとなった.

  • Harasim, D., Noll, T. & Rohrmeier, M. (2019, corrected publication 2020). Distant Neighbors and Interscalar Contiguities. In: Montiel, M., Gomez-Martin, F., Agustín-Aquino, O.A. (Eds.) Mathematics and Computation in Music. 172-184. Springer.

doi.org


遠近傍とスケール間近接
Daniel Harasim, Thomas Noll, Martin Rohrmeier

概要
本論文では,19世紀和声の「統合(integration)」問題,すなわち,この時代の斬新な半音階的和音進行が,旧来のダイアトニック系(diatonic system)からの根本的な脱却であったのか,それとも自然な拡張であったのかという問題を検討する.ダイアトニックのトライアドならびにその一般化の間の声部連結(voice leading)がみせるローカルな挙動と,声部連結空間(voice-leading space)のグローバルな特性との関連が検証される.特に,ダイアトニック系へと統合可能/不可能なネオ・リーマン的和音接続を特定することを目的とする.Jack Douthettのフィルター点対称性(filtered point symmetry)から出発して,ダイアトニックのトライアドを2次Clough-Myersonスケール(second-order Clough-Myerson scale)として一般化し,その結果得られるDouthettグラフ(Douthett graph)をそれぞれの中間グラフ(betweenness graph)と比較する.本論文は,ダイアトニック系における最小声部連結(minimal voice leading)の原則を用いたヘキサトニック/オクタトニック・サイクル(hexatonic cycle, octatonic cycle)の構成を提示するなど,基本的に統合主義的立場を強化するものである.一方で,半音階的ワームホール,すなわち,ダイアトニック・コードのうち2次Clough-Myersonスケールの系では近接しないようなものの間の,節約的な(parsimonious)接続を見つけ出す手法も与える.

キーワード
ダイアトニック理論(diatonic theory),ヘキサトニック・サイクル,ネオ・リーマン変形,極大均等スケール(maximally even scale),声部連結の節約(voice-leading parsimony)

1. 序論

音楽は,和声,声部連結,リズムといった様々な次元にわたって複雑な構造を示す.このような構造的関係は,音楽の歴史的発展の中で観察される,文化的進化の影響下にある.和声における有名な変遷は,19世紀の西洋クラシック音楽で起こった.作曲家たちが,従来のダイアトニックの用法を超える新しい半音階的接続の中でトライアドやセブンスコードを使い始めたのである[6, 10, 16].この変遷の本質については,こうした和音の斬新な用法が旧来の調性的和声からの根本的な脱却だったのか,それとも自然な拡張だったのか,という議論が続いており,「統合」問題と呼ばれている[18].本論文は,19世紀末の音楽の高度な和声構造(ジャズにも見られる)を,一般化されたダイアトニックの枠組みで再構築することで,後者の立場を支持することを目的とする.ネオ・リーマン理論,数理音階理論,声部連結空間,Fourier解析における定義や結果を援用し,これらのアプローチ間の関連性を明らかにする.

数理音楽理論は,正確な定式化の手段たるべく,音楽の対象とその関係についての記述と命題から構成される.この学問領域は,特定の音楽現象の特徴づけに焦点を当てながら,それぞれ独自に生まれ,発展してきた.例えば,トライアドの音楽的意義を説明するにあたり,様々な角度から多くの提案がなされてきた.Hauptmannの長調と短調の概念におけるスリー・トライアド・システムの構成単位としての位置づけ[12],他のトライアドと接続する際の声部連結の節約性(parsimony)[5, 8],2次極大均等集合(second-order maximally even set)としての位置づけ[4],ピッチクラス・セットとしての変形安定性[13],3-和音のorbifoldの特異点の近傍としての位置づけ[17]などがそれである.これらの特徴づけの間にある論理的な依存関係により,かつては分離していた研究路線どうしの統合という興味深いプロセスが引き起こされ,今日まで続く議論が形作られている.さらに,異なるアプローチ間に構造的な関連性があるということから,19世紀西洋音楽における調性の発展について興味深い解釈がもたらされる.それは,ロマン派の作曲家たちは拡張的調性の複雑な空間を探究するにあたり,トライアドやセブンスコードのダイアトニックな用法を徐々に広げていった,ということである.これとは逆の立場では,トライアドを調性の基本構成単位として利用する,いくつかの独立した方法を論じている.例えば,Richard Cohnは「過剰決定された(over-determined)トライアド」[5, 6]を調性体系を内部から崩壊させる火種として解釈し,トライアドはダイアトニック的な所属関係から解放されたクロマティック系の中の住人であると強調している.Cohnがダイアトニック的支配からトライアドを切り離す典型的な例として挙げた,ヘキサトニック・サイクル内での声部連結の接続では,ダイアトニック的動機を持つ異なる2タイプの和音接続が実例となっている.$$\text{C} \overset{P}{\longmapsto} \text{Cm} \overset{L}{\longmapsto} \text{A}\flat \overset{P}{\longmapsto} \text{A} \flat \text{m} \overset{L}{\longmapsto} \text{E} \overset{P}{\longmapsto} \text{Em} \overset{L}{\longmapsto} \text{C}$$なるヘキサトニック・サイクルでは,12平均律内の各トライアドに対し,ネオ・リーマン操作$P$と$L$が交互に適用される.導音転換(leadin-tone exchange)$L$は節約的なダイアトニック接続である(例:$\text{C} \mapsto \text{Em}$).同主調(parallel)的変換$P$は,下敷きとなるスケールを変更した結果として解釈できる($\flat$または$\sharp$,例:$\text{Em} \mapsto \text{E}$).

本稿では,ダイアトニック・トライアドならびにその一般形の間の声部連結がみせるローカルな挙動と,声部連結グラフ(voice-leading graph)のグローバルな特性との関連を検証する.これにより,我々によるダイアトニック系の一般化へと統合可能/不可能なネオ・リーマン的和音接続を特定する.John Clough,Jack Douthett,ならびにその共著者たちは,ローカル/グローバルな側面の両方において重要な貢献をなしており,そこが我々の出発点となっている.ダイアトニック・セットの特性の特徴づけに関する主な結果は,極大均等集合(maximally even set)についての彼らの共著論文[4]で得られている.声部連結グラフを理解する上で画期的であったのが,DouthettとPeter Steinbachによる,ネオ・リーマン的アプローチを用いた節約的グラフ(parsimonious graph)についての共著論文[8]である.これら両方の側面を体系的に組み合わせようというプログラマティックなステップが,Douthettのフィルター点対称性と動的声部連結(dynamical voice leading)といったアプローチ[7]において見られる.

2. 2次Clough-Myersonスケールとしてのトライアド

本節では,ダイアトニック・トライアドとそのPLR変形を一般化し,後の節で一般化されたトライアド接続を調べるための準備を行う.

定義1(Clough-Myersonスケール)
(1次)Clough-Myersonスケール((first-order) Clough-Myerson scale)とは,極大均等スケールであって,クロマティック基数(chromatic cardinality)とダイアトニック基数(diatonic cardinality)とが互いに素なものである.

特に,全てのClough-Myersonスケールは非退化(non-degenerate)well-formedである[2, 3].*1従ってそのようなスケールの各々は,その基数$d$と,それを取り巻くクロマティック基数$c$($d < c$)によって(クロマティックな移置(transposition)を除いて)一意に定まる.クロマティック・スケール$\mathbb{Z}_c$の中では,スケールの$c$通りの移置により$d \cdot c$通りの異なるモードが得られる.各モードは,CloughとDouthettによる$J$関数$J^m _{c, d} \colon \mathbb{Z}_d \to \mathbb{Z}_c$の特別な場合として与えられる.ただし,モード指数$m$は$0$から$d \cdot c - 1$を走る.注意すべきは,この用語法においてモードはスケールよりも多くの構造を持っているという点である.$\text{C}$イオニアン,$\text{F}$リディアン,$\text{E}$フリジアンがダイアトニック・スケール$\{C, D, E, F, G, A, B\}$のモードであるように,モードは特定の根音を伴ったスケールのことをいう.指数$m$を持つモードの,スケール・デグリー$k$の固有(specific)ピッチクラスは$$J^m_{c, d} (k) \coloneqq \left\lfloor \frac{ck + m}{d} \right\rfloor \bmod c$$で与えられる.Clough-Myersonスケールは,固有インターバル$\bar{d}$によってwell-formedな形で生成される.ただし$\bar{d}$とは,クロマティック基数$c$を法としたスケール基数$d$の乗法的逆元である.すなわち$\bar{d} d = 1 \bmod c$.Clough-Myersonモードを生成順に表すとどうなるかを示すのが,次の命題である.

命題1
各Clough-Myersonモード$J^m_{c, d}$は,次の写像$G^m_{c, d} \colon \mathbb{Z}_d \to \mathbb{Z}_c$に基づき生成順に表される.$$G^m_{c, d} (k) \coloneqq d (m - k) \bmod c$$

証明
各モード指数$m$に対し,well-formedness特性は以下の可換三角形によって表される.

アフィン自己同型$f \colon \mathbb{Z}_d \to \mathbb{Z}_d$とその逆写像$f^{-1}$は,$f (k) = g (m - k) \bmod d$および$f^{-1} (k) = m - wk \bmod d$によって与えられる.自己同型$f$内の線形因数$g \in \mathbb{Z}_d$は生成元のステップ・スパン(=汎用サイズ(generic size))の$d$を法とする剰余類であり,$\left\lfloor \dfrac{d \bar{d}}{c} \right\rfloor$で計算できる.(逆自己同型$f^{-1}$内の)逆線形因数$w = g^{-1} \in \mathbb{Z}_d$はスケールの回転数,すなわち,スケール生成の際に占められるオクターブの範囲である.明らかに,この式は互いに逆な写像を表している.$f^{-1} (f (k)) = m - wg (m - k) = m - m + k = k$.可換性を確かめるため,$m \in \{0, \dots, d \cdot c - 1\}$と$k \in \{0, \dots, d - 1\}$に対し,$J^m_{c, d} \circ f = G^m_{c, d}$であることを示す.これは$\mathbb{N}$における以下の等式から従う.$$\left\lfloor \frac{c \left\lfloor \frac{d \bar{d}}{c} \right\rfloor (m - k) + m}{d} \right\rfloor = \left\lfloor \frac{(d \bar{d} - 1) (m - k) + m}{d} \right\rfloor = \left\lfloor \bar{d} (m - k) + \frac{k}{d} \right\rfloor = \bar{d} (m - k)$$

定義2
最大公約数が$(e, d) = (d, c) = 1$であるような3つの自然数$0 < e < d < c$を考える.2次Clough-Myersonモード$J^{m, n}_{c, d, e} \coloneqq J^m_{c, d} \circ J^n_{d, e} \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{Z}_c$は,2つのClough-Myersonモード$J^n_{d, e} \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{Z}_d$と$J^m_{c, d} \colon \mathbb{Z}_d \to \mathbb{Z}_c$の合成として定義される.

3. ダイアトニック近接とその破れ

観察:2つのダイアトニック・トライアド間に最も節約的な接続(1つの声部が半音動く)がある場合,それらは共通のダイアトニック・コレクションに属するか(導音転換),5度圏に沿って隣り合うダイアトニック・コレクションの対に属するか(同主調的変形,例:$F$メジャー内の$\text{C}$から$B \flat$メジャー内の$\text{Cm}$)のいずれかである.これをダイアトニック近接(diatonic contiguity)の特性と呼ぶことにする.

この観察は重要である.というのも,これの一般的な定式化が,第1節で述べたYust[18]の統合主義的立場を強化することになるからである.従って,トライアドの自律性/ダイアトニック依存性に関する論争において,より広範な2次Clough-Myersonスケール群に対してもこの特性が成り立つかどうかを知るのは興味深いことである.とりわけ,この近接は2次Clough-Myersonスケールの全ての構成(configuration)に対して成立するわけではない.以下がその反例である.

一般クロマティック空間(generalized chromatic space)の働きをするものとして汎用7音スケール$\mathbb{Z}_7$を考え,$C, D, E, F, G, A, B$を音名として用いる.この中では,4度生成のペンタトニック・スケールからなる節約的サイクルが得られ,各スケール内では,4音の和音5つの全てからなる節約的サイクルが得られる.つまり,$c = 7, \ d = 5, \ e = 4$での2次Clough-Myersonスケールを考えるということである.7つの4-和音サイクルの各々には,$\mathbb{Z}_7$で極大均等であるダイアトニック・セブンスコードがちょうど1つ存在する.これらのダイアトニック・セブンスコードは,(この場合は)「ペンタトニック」近接に反してしまう.これらの和音は,最も節約的な声部連結(1つの声部が1ダイアトニック・ステップ動く)を備えてはいるが,以下の配列でマンハッタン(またはタクシー)距離を使って示されるように,それらの間のペンタトニック距離(一般調性距離)は3である.例えば,$\text{F}^{\text{maj} 7}$と$\text{Dm}^7$を考えよう.これらの一般クロマティック距離は1であり,そのため最も節約的であるが,これらが現れるペンタトニック・スケール($\{C, E, F, A, B\}$と$\{C, D, F, G, A\}$)は隣り合ったスケールにならない.$$\begin{alignat*}{2} & \{C, D, F, G, A\} \colon \quad & &\{C, D, F, G\}, \underbar{\{C, D, F, A\}}, \{C, D, G, A\}, \{C, F, G, A\}, \{D, F, G, A\} \\ & \{C, D, E, G, A\} \colon \quad & &\{C, D, E, G\}, \{C, D, E, A\}, \{C, D, G, A\}, \underbar{\{C, E, G, A\}}, \{D, E, G, A\} \\ & \{D, E, G, A, B\} \colon \quad & &\underbar{\{D, E, G, B\}}, \{D, E, A, B\}, \{D, G, A, B\}, \{E, G, A, B\}, \{E, G, A, B\} \\ & \{D, E, F, A, B\} \colon \quad & & \{D, E, F, B\}, \{D, E, A, B\}, \underbar{\{D, F, A, B\}}, \{E, F, A, B\}, \{D, E, F, A\} \\ & \{C, E, F, A, B\} \colon \quad & &\{C, E, F, B\}, \{C, E, A, B\}, \{C, F, A, B\}, \{E, F, A, B\}, \underbar{\{C, E, F, A\}} \\ & \{C, E, F, G, B\} \colon \quad & &\{C, E, F, B\}, \underbar{\{C, E, G, B\}}, \{C, F, G, B\}, \{E, F, G, B\}, \{C, E, F, G\} \\ & \{C, D, F, G, B\} \colon \quad & &\{C, D, F, B\}, \{C, D, G, B\}, \{C, F, G, B\}, \underbar{\{D, F, G, B\}}, \{C, D, F, G\} \end{alignat*}$$この反例を得るのに用いた構成は,座標空間(coordinate space)[14, 15]や構成空間(configuration space)[19]に似たDouthettグラフなる概念を用いて,任意の2次Clough-Myerson構成に対して一般化できる.

定義3(Douthettグラフ)
与えられた基数$0 < e < d < c$に対し,Douthettグラフ$\mathcal{D}_{c, d, e}$は,2次Clough-Myersonスケールを頂点として持ち,任意の2つのスケール内近傍(intrascalar neighbor)$J^m_{c, d} (J^{n + 1}_{d, e} (\mathbb{Z}_e))$と$J^m_{c, d} (J^{n}_{d, e} (\mathbb{Z}_e))$の間,および任意のクロマティック変換に関する近傍(neighbors under chromatic alteration)の間に辺を持つ.これは$J^{m + 1}_{c, d} (J^n_{d, e} (\mathbb{Z}_e)) \neq J^m_{c, d} (J^n_{d, e} (\mathbb{Z}_e))$となる場合である.

スケール内近傍は,ネオ・リーマン変形$L$と$R$によって関連付けられた和音を一般化し,クロマティック変換に関する近傍は,変形$P$によって関連付けられた和音を一般化するものである.*2

4. 遠近傍とスケール間近接

本節では,下で定義されるような遠(スケール内)近傍(distant (intrascalar) neighbors)とスケール間近接(interscalar contiguities)なる概念を用いて,Douthettグラフをその対応する中間グラフと比較する.図1(上)は,12平均律におけるメジャー/マイナー/ディミニッシュド・トライアドのDouthettグラフ$\mathcal{D}_{12, 7, 3}$である.辺は,対応する中間グラフ(下を参照)の辺でもある場合は黒く塗られ,それ以外の場合はオレンジに塗られている.例えば,$\text{C}$メジャースケールのトライアド$\text{Em}, \text{C}, \text{Am}, \text{F}, \text{Dm}, \text{Bdim}, \text{G}$は,スケール内(この場合はダイアトニック)声部連結サイクルをこのグラフにおいて形成している.$\{0, 4, 7\}$と$\{0, 3, 7\}$で表される和音$\text{C}$と$\text{Cm}$は,クロマティック変換に関する近傍の例となっている.以下の声部連結距離(voice-leading distance)なる概念(タクシー計量[17]や声部連結の仕事(voice-leading work)[6]としても知られる)が,必然的に,中間グラフを定義するのに用いられる.

定義4(声部連結距離)
$c \in \mathbb{N}$に対し,一般クロマティック・スケール$\mathbb{N}_c = \{0, 1, \dots, c - 1\}$(ここでは整数の集合として用いる)は,Lee距離$$d (x, y) = \min (|x - y|, c - |y - x|)$$に関して距離空間を形成する.ここで,$x, y \in \mathbb{N}_c$である.このとき,和音(もしくはスケール)$X, Y \subseteq \mathbb{N}_c$間の(最小)声部連結距離((minimal) voice-leading distance)は,最小全単射(minimal bijection)の移動の和$$D (X, Y) = \min_{f \colon X \overset{\simeq}{\to} Y} \sum_{x \in X} d (x, f (x))$$として定義される.最小全単射は,$X$から$Y$への最小声部連結とも呼ばれる.

声部連結距離が,同サイズの和音からなる任意の集合上で距離となることに注意せよ.特に,和音の共通部分に含まれる音全てを固定するような最小声部連結が常に存在する.証明と例は[11]を参照せよ.

定義5(中間グラフ)
和音$Y \subseteq \mathbb{Z}_c$が2つの和音$X, Z \subseteq \mathbb{Z}_c$の間にある(in between)とは,$D (X, Z) = D (X, Y) + D (Y, Z)$であることをいう.同サイズの和音からなる集合$\mathcal{X} \subseteq 2^{\mathbb{N}_c}$(ここで$2^{\mathbb{N}_c}$は$\mathbb{N}_c$の冪集合を指す)の中間グラフが2つの和音$X$と$Z$の間に辺を持つのは,その間にいかなる和音もないちょうどその時である.与えられた基数$0 < e < d < c$に対し,2次Clough-Myersonスケールの中間グラフを$\mathcal{B}_{c, d, e}$と表す.

図1(下)は,図1(上)のDouthettグラフ$\mathcal{D}_{12, 7, 3}$に対応する中間グラフ$\mathcal{B}_{12, 7, 3}$である.図1(下)において,辺は,$\mathcal{D}_{12, 7, 3}$の辺でもある場合は黒く塗られ,それ以外の場合はオレンジに塗られている.和音のペア$\text{Dm}$と$\text{Bdim}$,ならびに$\text{Bdim}$と$\text{G}$は直接接続していないが,それぞれスケール外の和音$\text{B} \flat$と$\text{Bm}$を介した形であるため,$\text{C}$メジャースケールのトライアドはDouthettグラフ$\mathcal{D}_{12, 7, 3}$におけるスケール内声部連結サイクルとは異なるサイクルを中間グラフ内で形成している.

Douthettグラフは声部連結変形のローカルな側面に焦点を当てたものである.定義より,与えられた2つの和音のパス距離を直接求めることはできないが,任意の与えられた和音に対してその近傍に直接アクセスすることはできる.反対に,中間グラフは最小声部連結のグローバルな側面に焦点を当てたものである.与えられた2つの和音の声部連結距離は定義を使って計算できるが,2つの和音が中間グラフにおいて隣接しているかどうかを判断するのは容易ではない.一般に,Douthettグラフと中間グラフには重複する辺があるが,そのいずれも他方の部分グラフにはならない.これらを比較するため,Douthettグラフ$\mathcal{D}_{c, d, e}$には存在するが中間グラフ$\mathcal{B}_{c, d, e}$には存在しない辺と,その逆の辺に名前を与える.

図1:$c = 12, \ d = 7, \ e = 3$の場合のDouthett/中間グラフ.(Color figure online)

定義6(遠近傍)
Douthettグラフ$\mathcal{D}_{c, d, e}$の辺であって,その対応する中間グラフ$\mathcal{B}_{c, d, e}$の辺ではないものを,遠(スケール内)近傍と呼ぶ.

図1(上)のオレンジの辺は,基数$c = 12, \ d = 7, \ e = 3$での2次Clough-Myersonスケールの遠近傍である.例えば,和音$\text{Dm}$と$\text{Bdim}$を考えよう.これらはいずれも$\text{C}$メジャースケールの和音であるが,図1(下)の中間グラフ$\mathcal{B}_{c, d, e}$では隣接していない.これは,声部連結距離に関して,和音$\text{B} \flat$($\{2, 5, 10\}$で表される)がこれらの間に位置しているからである.

定義7(スケール間近接)
中間グラフ$\mathcal{B}_{c, d, e}$の辺であって,Douthettグラフ$\mathcal{D}_{c, d, e}$の辺ではないものを,スケール間近接と呼ぶ.

図1(下)のオレンジの辺は,基数$c = 12, \ d = 7, \ e = 3$での2次Clough-Myersonスケールのスケール間近接である.例えば,和音$\text{Cm}$と$\text{G}$を考えよう.これらはそれぞれ$\{0, 3, 7\}$および$\{2, 7, 11\}$と表される.$D (\text{Cm}, \text{G}) = D (\text{Cm}, Y) + D (Y, \text{G})$となるトライアド$Y$は存在しないので,$\text{Cm}$と$\text{G}$は中間グラフ$\mathcal{B}_{12, 7, 3}$において隣接しているが,スケール内近傍でもクロマティック変換に関する近傍でもない.

5. 中間グラフにおけるヘキサトニック/オクタトニック・サイクルのパス特徴づけ

序論で述べたように,ヘキサトニック・サイクルは,ダイアトニック・トライアドからなるDouthettグラフ$\mathcal{D}_{12, 7, 3}$の中でネオ・リーマン変形$L$と$P$を用いて定義されるのが普通である.対応する中間グラフ$\mathcal{B}_{12, 7, 3}$では,ヘキサトニック・サイクルは声部連結距離1を持つ交代的声部連結(toggling voice leading)(声部移動の方向が切り替わるジグザグ状の声部連結)のサイクルとして特徴づけられる.例えば$\text{C}, \text{Cm}, \text{A} \flat, \text{A} \flat \text{m}, \text{E}, \text{Em}$のサイクルでは,音$E$は$E \flat$へと下降し,$G$は$A \flat$へと上昇し,$C$は$C \flat$へと下降する,等々.特に,交代的声部連結による特徴づけは,和音の内部構造から独立している.これは外部的な特徴づけであり,同サイズの和音からなるいかなる空間にも適用可能である.例えば,12-7-4・2次Clough-Myersonスケール(ダイアトニック・セブンスコード)の場合,声部連結距離1を持つ交代的声部連結のサイクルは,ちょうど$\text{C}^7 \ \text{Am}^7 \ \text{A}^7 \ \text{F} \sharp \text{m}^7 \ \text{F} \sharp^7 \ \text{E} \flat \text{m}^7 \ \text{E} \flat^7 \ \text{Cm}^7 \ \text{C}^7$といったようなオクタトニック・サイクルとなる.しかし一般に2次Clough-Myerson空間において,声部連結距離1の交代的声部連結のサイクルが常に存在するわけではない.例えば中間グラフ$\mathcal{B}_{12, 8, 3}$は,全くサイクルを含んでいない.

さらに,今見たようなヘキサトニック/オクタトニック・サイクルの特徴づけによって,これらのサイクルを最小声部連結の原則とダイアトニック・トライアド/セブンスコードの集合のみを用いて構成することが可能となる.これを一般ヘキサトニック・サイクルの定義とみなせば,Clough-Myerson構成$c$-$d$-$e$が一般ヘキサトニック・サイクルを持つための必要十分条件を調べることが可能となる.

6. クロマティック飽和

遠スケール内近傍は,スケールの近傍和音の間にスケール外の和音が忍び入ることで発生するものである.これらの中間的な半音階的経過和音は,その声部連結の振舞いを見れば容易に検出できる.経過和音への接近・離反は,同じ1つの声部内の動きによって行われる.従って,声部連結接続をモデル化するにあたり,これらの経過和音(2次Clough-Myersonスケールである必要もない)を含めることはさらなる自然なステップである.

2次Clough-Myerson音階が特に2次極大均等(second-order maximally even)であるという事実を思い出すと,このような単一声部移動による経過和音は少なくとも,2つの繋がった和音のうちより均等でない方と同程度には均等であることが分かる.このことを明確にするため,和音/スケール$X \subset \mathbb{Z}_c$の均等度(evenness)を,$X$を単位円上で表現したものの第1Fourier係数の絶対値とするEmmanuel Amiotの案[1]を採用する.

全てのクロマティック・ピッチクラス空間$\mathbb{Z}_c$に対し,複素数の集合$\mathbb{C}$内の単位円$\mathbb{T}$への,1の$c$乗根を介した埋め込み$\iota \colon \mathbb{Z}_c \to \mathbb{T} \subset \mathbb{C}$を考える.ただし,$\mathbb{Z}_c$内の剰余類の任意の整数代表元$k \in \mathbb{Z}$に対し,$\iota (k) \coloneqq \exp (2 \pi i k / c)$とする.全ての$e$音モード$\sigma \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{Z}_c$に対し,合成$\iota \circ \sigma \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{C}$を得る.任意の写像$\phi \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{C}$に対し,式$$\widehat{\phi} (t) = \frac{1}{e} \sum^{e - 1}_{k = 0} \phi (k) \exp \left(-\frac{2 \pi i k t}{e} \right)$$によって,有限Fourier変換$\widehat{\phi} \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{C}$を考えてもよいのであった.

定義8
単位円上の点$X_k = \exp (2 \pi i t_k), \ t_k \in [0, 1)$からなる与えられた列$X \colon \mathbb{Z}_c \to \mathbb{T}$に対し,その均等度を絶対値$\operatorname{evenness} (X) = |\widehat{X} (1)|$によって定める.$e$音モード$\sigma \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{Z}_c$に対し,その均等度を合成$\iota \circ \sigma \colon \mathbb{Z}_e \to \mathbb{C}$の均等度として定義する.

経過和音に関する我々の知見は,実際にはさらに一般的な性質のものであり,連続的に移動する声部によって最もよく理解できる.

定義9
単位円上の$e - 1$個の点からなる与えられた列$X = (\exp (2 \pi i t_1), \dots, \exp (2 \pi i t_{e - 1})) \in \mathbb{T}^{e - 1}$に対し,連続な族$X_\_ \colon [0, 1) \to \mathbb{T}^e$(ただし,$X_t \coloneqq (\exp (2 \pi i t), \exp (2 \pi i t_1), \dots, \exp (2 \pi i t_{e - 1}))$),ならびに$X$の単一ゼロパディング(Single-Zero-Padding),すなわちベクトル$$X^0 \coloneqq (0, \exp (2 \pi i t_1), \dots, \exp (2 \pi i t_{e - 1})) \in \mathbb{C}^e$$を合わせたものを考える.族$X_t$をスライド声部付き和音(chord with a sliding voice)と呼び,ベクトル$X^0$を「無音スライダー(muted slider)」と呼ぶことにする.

命題2
スライド声部付き和音$X_t \colon [0, 1) \to \mathbb{T}^e$と,それに伴う「無音スライダー」$X^0$を考える.このとき,これに伴うベクトル$X_t$の第1Fourier係数からなる1-パラメータ族$\{\widehat{X_t} (1) \in \mathbb{C} | t \in [0, 1)\}$は,$X^0$の第1Fourier係数$\widehat{X^0} (1)$の周りに半径$1 / e$の円をなす.最も均等/不均等な和音$X_v$と$X_u$は,それぞれパラメータ$v = \arg (\widehat{X^0} (1)) / 2 \pi$と$u = v + \frac{1}{2} \bmod 1$に対応する.

証明
$t \in [0, 1)$に対し,$$\begin{align} \widehat{X_t} (1) &= \frac{1}{e} \left(\exp (2 \pi i t) + \sum^{e - 1}_{k = 1} \exp \left(2 \pi i \left(t_k - \frac{k}{e} \right) \right) \right) \notag \\ &= \frac{\exp(2 \pi i t)}{e} + \widehat{X^0} (1) \end{align}$$が分かる.$l = |\widehat{X^0} (1)|$と$\psi = \arg (\widehat{X^0} (1))$を,それぞれ$X^0$の第1Fourier係数の絶対値および位相とする.このとき,位相$\psi$を同じに保ち,絶対値$l$に半径$1 / e$を加えることで,最も均等な和音$X_v$の第1Fourier係数$\widehat{X_v} (1) = (l + 1 / e) \exp (i \psi)$を得る.同様に,最も不均等な和音に対して$\widehat{X_u} (1) = (l - 1 / e) \exp (i \psi)$を得る.$X_v$のパラメータが実際に$v = \psi / 2 \pi$であることを確かめるため,この値を式(1)の$t$に代入する.$$\begin{align*} \widehat{X_{\psi / 2 \pi}} (1) &= \frac{\exp \left(\frac{2 \pi i \psi}{2 \pi} \right)}{e} + \widehat{X^0} (1) \\ &= \frac{\exp (i \psi)}{e} + l \exp (i \psi) = \left(l + \frac{1}{e} \right) \exp (i \psi) \\ &= \widehat{X_v} \end{align*}$$スライド声部が$\exp (2 \pi i \psi)$から対蹠点$\exp (2 \pi i (\psi + 1 / 2))$へと単位円の約半周分移動することは,$\widehat{X^0} (1)$の周りの小円上でFourier係数$(l + 1 / e) \exp (i \psi)$が対蹠点$(l - 1 / e) \exp (i \psi)$へと半周移動することに対応する.ゆえに,$u = v + \frac{1}{2}$である.

この命題から,経過和音に関する以下の結果が得られる.

系1
スライド声部$X_t \colon [0, 1) \to \mathbb{T}^e$付きの和音$X_r$と$X_s$であって,その他の全ての点(持続音)が$s$と$r$の間の円弧上にあり,また$r$と$s$の間にはいかなる音もないようなものを考える.すなわち,$0 < s < t_1 < \dots t_{e - 1} < r < 1$.これに対応する第1Fourier係数$\widehat{X_r} (1)$と$\widehat{X_s} (1)$を考える.もし族$X_t$内での最も不均等な和音$X_u$の第1Fourier係数$\widehat{X_u} (1)$が,反時計回りで$\widehat{X_r} (1)$と$\widehat{X_s} (1)$の間に位置しないならば,$r$と$s$の間の任意の$t$($r \le t < 1$または$0 \le t \le s$)に対し,$|\widehat{X_t} (1)| \ge \min (|\widehat{X_r} (1)|, |\widehat{X_s} (1)|)$が成り立つ.

証明
このことは,曲線$\{\widehat{X_t} (1) | t \in [0, 1)\}$が円であることから直ちに従う.$\widehat{X_v} (1)$も$\widehat{X_t} (1)$も含まないような任意の円の弧において,絶対値$|\widehat{X_t} (1)|$は単調増加(または減少)である.$\widehat{X_v} (1)$のみが含まれ$\widehat{X_u} (1)$は含まれない場合,絶対値$|\widehat{X_t} (1)|$は極大値を通過し,至るところ$|\widehat{X_t} (1)| \ge \min (|\widehat{X_r} (1)|, |\widehat{X_s} (1)|)$を満たす.

この系1に照らして,族$X_t$内で最も不均等な和音$X_u$の第1Fourier係数$\widehat{X_u} (1)$が,実際には$\widehat{X_r} (1)$と$\widehat{X_s} (1)$の間(反時計回りで)に位置する場合について検討せねばならない.まず,そのような和音は非常に広いステップインターバルを1つ持つことを$e = 3$の場合に示すが,このことは,この状況[訳注:$\widehat{X_u} (1)$が$\widehat{X_r} (1)$と$\widehat{X_s} (1)$の間にあること]が2次Clough-Myerson和音(スケール)では起こりえないことを意味するものである.

命題3
スライド声部$X_t \colon [0, 1) \to \mathbb{T}^e$付きの3-和音であって,その持続音の対$X = (\exp (2 \pi i t_1), \exp (2 \pi i t_2)) \in \mathbb{T}^2$が$0 \le t_1 < t_2 < 1$を満たすようなものを考える.さらに,$X_u = X_0$が最も不均等な和音であるとする.このとき,持続音は$t_1 < \frac{1}{12}$および$t_2 > \frac{11}{12}$を満たす.すなわち,$X_u$の3音は中心角$\frac{2 \pi}{6}$の円弧内に位置する.

証明
$u = 0$が最も不均等な和音のパラメータであることから,命題2より$\arg (\widehat{X^0} (1)) = 2 \pi v = \pi$が従う($v = u - \frac{1}{2}$であるため).つまり,第1Fourier係数$\widehat{X^0} (1)$と$\widehat{X_0} (1) = \widehat{X^0} (1) + \frac{1}{3}$はいずれも実軸上にあり,係数$\widehat{X^0} (1)$は負でなければならない.従って,$3 \widehat{X^0} (1) = (\exp (2 \pi i (t_1 - \frac{1}{3})) + \exp (2 \pi i (t_2 - \frac{2}{3})))$の2つの(0でない)加数は,同じ負の実部のもとで共役でなければならない.ゆえに,$t_2 = 1 - t_1$であり,従って$t_1 \le \frac{1}{2}$である($t_1 \le t_2$であるから).$\operatorname{Re} (\exp (2 \pi i (t_1 - \frac{1}{3}))) < 0 \iff \frac{1}{4} < (t_1 + \frac{2}{3}) \bmod 1 < \frac{3}{4} \iff 0 < t_1 < \frac{1}{12} \text{ or } \frac{7}{12} < t_1 < 1$を得る.$t_1 < \frac{1}{2}$であるから,後者の不等式は問題にならない.ゆえに,$t_1 < \frac{1}{12}$および$t_2 > \frac{11}{12}$を得る.

これと似た言明は基数$e > 3$の和音にも当てはまる可能性が高く,$X_0$の点で覆われる1の周りの円弧長に依存する$|\widehat{X_0} (1)|$の推定値の助けを借りて証明できるであろう.最も広いステップインターバルの推定値は,単位円上で連続する点列の第1Fourier係数の加数の分布に関する以下の予想からも従う.

予想1
単位円上で反時計回りの向きに連続する点からなる列$X = (\exp (2 \pi i t_1), \dots, \exp (2 \pi i t_{e - 1})) \in \mathbb{T}^{e - 1}$であって,$X^0 = (0, \exp (2 \pi i t_1), \dots, \exp (2 \pi i t_{e - 1})) \in \cnums^e$の第1Fourier係数が負の実数である(より正確には,$\widehat{X^0} (1) \in (-1, 0)$)ようなものを考える.このとき,$e \cdot \widehat{X^0} (1)$の$e - 1$個の(0でない)加数からなる列$Y^0 = (\exp (2 \pi i (t_1 - 1 / e)), \dots, \exp (2 \pi i (t_k - k / e)))$は,単位円上の(時計回りに)連続する点からなる.

この予想によれば,パラメータ$t_1, \dots, t_{e - 1}$はサイズ$(1 - \frac{e - 1}{e}) - \frac{1}{e} = 1 - \frac{e - 2}{e} = \frac{2}{e}$のインターバル内に収まっていなければならない[訳注:この計算式は誤りである.].$e \ge 4$のとき,2次Clough-Myerson和音はここから全て排除される.

7. 結論と今後の研究

本論文では,トライアドの働きをするものとして2次Clough-Myersonスケールを用い,ダイアトニック・トライアドの一般化を提示することで「統合」問題を検討した.さらに,その結果得られる和音接続と,グローバルに定義された声部連結距離とを,遠近傍とスケール間近接という新しい概念を利用して比較した.ダイアトニック近接の特性は,反例が示すように,この一般的な場合には成立しない.本論文では特に,ヘキサトニック・サイクルの一般化を提示し,それがダイアトニック系へと統合されることを見た.

本論文に基づく今後の研究の方向性は主に3つある.Douthettグラフと中間グラフとの関係をさらに理解するため,第1Fourier係数の均等度を利用して,経過和音付きのDouthettグラフ・中間グラフの飽和度(saturation)を定義・検討・比較する.第2の方向性では,変形を再び登場させ,これらの声部連結グラフの適切な部分グラフを,音楽的に有意味な生成元に関する群作用のCayleyグラフとして解釈することが目指される.第3の方向性では,本論文の知見をTonfeld分析[10, 16]の潜在的な統合主義的強化物として解釈し,当分野をネオ・リーマン的アプローチに関する談話とより緊密に触れ合わせることが目指される.

謝辞
建設的で有益な助言をいただいたFabian C. Moss,Christoph Finkensiep,および2名の匿名査読者に感謝する.

参考文献

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*1:Clough and Myerson [3]は,Clough-MyersonスケールがMyhill性(Myhill's property)を持つこと,すなわち0でない汎用インターバル(generic interval)が全部で2種類となることを示している.

*2:ここでは,コード進行の変形的扱いはせずに済ませねばならない.ダイアトニック・トライアドからなるDouthettグラフは,チキンネット・グラフ(chicken-wire graph)(生成元$P, L, R$に関する,進行/転換群(Schritt-Wechsel group)の24個のメジャー/マイナー・トライアドへの作用のCayleyグラフ)を含んでいる.ディミニッシュド・トライアドとそれに対応する声部連結の接続は含まれていない.